消化器領域

【部位別死亡者数】

【出典:公益財団法人がん研究振興財団. 「がんの統計 2022」 . https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/2022_jp.html , (2025年7月25日参照)】

【消化器領域における早期がんに対する治療】

早期がんに対する内視鏡治療手技が発達し、根治ができる症例が増加しており、従来の治療に代わる新治療法として注目されています。当センターでは可能な限り、リンパ節転移の可能性が少ない消化器領域における早期がんに対しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection、ESD)を行っています。治療手技は内視鏡治療用の電気のメスで直接、病変部を切って剥ぎ取る方法です。高度な内視鏡治療技術が要求されます。比較的大きな病変も一括切除が可能であるため局所再発率を下げることや、顕微鏡による正確な病理診断を行い、がんの悪性度を正確に調べることができるメリットがあります。低侵襲治療と正確な病理診断を兼ねた非常に優れた内視鏡治療です。

【内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)】

【出典:国立研究開発法人国立がん研究センター. 「がん情報サービス」 . https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/endoscopy.html , (2025年7月25日参照)】

【消化器領域における内視鏡治療実績】

早期大腸がんに対する治療

   大腸がんに罹患する人の割合は、40代から増え始め、高齢になる程高くなる。

大腸がんに罹患する人の割合は、40代から増え始め、高齢になる程高くなる。

【出典:国立研究開発法人国立がん研究センター. 「がん情報サービス」 . https://gdb.ganjoho.jp/graph_db/gdb1?dataType=30 , (2025年7月25日参照)】

   大腸がん(結腸がん+直腸がん)の罹患数、死亡数はともに年々増加傾向にある。

大腸がん(結腸がん+直腸がん)の罹患数、死亡数はともに年々増加傾向にある。

【出典:国立研究開発法人国立がん研究センター. 「がん情報サービス」 . https://gdb.ganjoho.jp/graph_db/gdb1?dataType=30 , (2025年7月25日参照)】

   大腸がんの多くは、大腸ポリープ(腺腫)から発生する。

大腸・直腸がんの多くは、大腸ポリープ(腺腫)から発生する。

大腸がん検診の一つに便潜血検査がありますが、この検査だけで腺腫や早期がん(腺腫内がん)を確実に発見することは困難です。出血していなくても、腸の中にポリープ(腺腫)ができている可能性は十分あり得るからです。当センターでは精度の高い大腸内視鏡検査を行い、ごく小さな腺腫でも発見することができます。

大腸がんを早期発見・早期治療するためには症状の有無に関係なく定期的な内視鏡検査が重要です。

内視鏡検査で見つかったポリープ(腺腫)に対しては、内視鏡治療(EMR、ポリペクトミー*など)を行います。早期大腸がん(20mmを超える大きな病変)に対しては、ESDによる一括切除を行います。局所再発率を下げることや、顕微鏡による正確な病理診断を行い、切除後の治療方針(治癒切除や追加外科手術の必要性など)を立てることができます。

*EMR(内視鏡的粘膜切除術) ポリペクトミー (内視鏡的ポリープ切除術)

【早期大腸がんにおける内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の実際】

早期胃がんに対する治療

早期胃がんの内視鏡治療は、がんが胃壁の浅い層に限定されている場合に適用されます。また、内視鏡治療では、胃の外側のリンパ節を切除することはできないので、リンパ節転移の可能性がかなり低いと考えられている病変が内視鏡治療の適応となります。適応はがんの大きさや組織型(分化型か未分化型か)、深さ、潰瘍合併の有無により規定されます。

内視鏡治療の絶対適応病変は主に以下のとおりです。

  ・潰瘍伴わない、粘膜内にとどまる分化型がん。大きさは問わない。

・潰瘍伴わない、粘膜内にとどまる分化型がん。大きさは問わない。

  ・潰瘍伴う、3cm以下の粘膜内にとどまる分化型がん。

・潰瘍伴う、3cm以下の粘膜内にとどまる分化型がん。

  ・潰瘍伴わない、2cm以下の粘膜内にとどまる未分化型がん。

・潰瘍伴わない、2cm以下の粘膜内にとどまる未分化型がん。

それ以外の病変の標準治療は外科的切除ですが、年齢や併存症など何らかの理由で外科的切除を選択し難い早期胃がんの場合には、推定されるリンパ節転移率などを考慮しつつ、内視鏡的切除が選択される場合があります。

【早期胃がんにおける内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の実際】

早期食道がんに対する治療

食道がんの治療には内視鏡治療、手術治療、放射線療法、化学療法の4つがあり、それぞれの治療法の特徴を生かしながら、単独あるいは組み合わせた治療を行います。どの治療を選択するかについては、がんの病期、すなわち臨床的進行度(ステージ)により決定されます。食道がんの病期はがんの深達度(がんの広がり)、リンパ節転移の有無、他の臓器への転移の有無により決定します。

【引用:日本食道学会. 「臨床・病理食道癌取扱規約第12版(2022年)(金原出版)」 . 食道がんの進行度(ステージ)分類. (2025年7月25日参照)】

早期食道がんの治療方針に関しては、内視鏡検査、CT検査、PET検査などにより、深達度診断、転移診断を行って決定されますが、特に内視鏡検査による壁深達度評価が重要です。すなわち深達度が粘膜にとどまる(T1a)か粘膜下層に達する(T1b)かにより初回治療法が異なり、T1aがんでは内視鏡的切除が、T1bがんでは手術や化学放射線治療(放射線治療と化学療法を併用する治療法)が治療の中心となってくるからです。

早期食道がんは粘膜固有層までのがんで、深さに応じてT1a-EP(粘膜上皮), T1a-LPM(粘膜固有層)、T1a-MM(粘膜筋板)で表記されます。T1a-EP・LPMまでは転移がほぼおこりませんが、粘膜固有層の最深部(粘膜筋板)まで入り込んでくるT1a-MMでは10%弱にリンパ節転移をおこしますので、内視鏡治療ではなく手術または化学放射線療法が選択される場合があります。

早期食道がんに対しては、可能な限り、ESDを行っています。食道がんを含む組織は、顕微鏡で詳細に調べます。治療後にがんが残っている可能性がある場合や、リンパ節転移の可能性が高いと判断された場合は、手術や化学放射線療法などを追加して行うことがあります。

【早期食道がんガイドライン】

【出典:日本食道学会. 「食道がん一般の方用サイト」 . ステージ0期、Ⅰ期食道がんに対する治療選択. https://www.esophagus.jp/public/cancer/05_stage.html , (2025年7月25日参照)】

【早期食道がんにおける内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の実際】

その他領域における内視鏡治療 – 早期咽頭がん –

近年、内視鏡技術の進歩により頭頚部領域の早期がん(表在がん)が発見されることが多くなりました。この領域の表在がんに対する標準治療は外科手術および放射線治療ですが、嚥下および発声機能、味覚、唾液機能の温存を重視した内視鏡切除の適応が拡大されています。当センターでは消化器がんへのESD治療の技術を応用し、咽頭表在がんに対するESDを行っています。

手術は全身麻酔下で行っています。先端フードを装着した内視鏡スコープを経口的に挿入し、NBI画像で病変部を確認します。全周性にマーキングを行います。生理食塩水を局注の上、口側より内視鏡治療用の電気のメスを用いて粘膜切開を開始し、全周切開します。腫瘍の口側より内視鏡治療用の電気のメスを用いて粘膜下層の剥離を行い、腫瘍の一括切除を行います。

【早期咽頭がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の実際】